奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を 覆した農家・木村秋則の記録(2009-13/100)

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を 覆した農家・木村秋則の記録

 木村さんのリンゴが食べたい。

 それがこの本を読み終えたときの率直な気持ちであった。いつもの書店で本を物色していたときにさわ やかな薄緑色の農園に満面の笑みで笑いかける一人の男の表紙が目に付いた。よくみると大きくあけた口 に歯が一本もない。(書のなかで歯がない理由についても触れられている)タイトルが「奇跡のリンゴ」 と気がついたのはその後である。リンゴ農家…あるいはリンゴ農家を立て直した敏腕経営者…そのどちら にも見えないこの方、木村さんに対して1時間後には「すごい!」と唸ってしまった。

 有機栽培や無農薬栽培などの農野菜がちまたで見られるようになってもう何年も経つが、どちらかとい うと野菜が中心で果物ではあまり見かけない。リンゴはもちろんのことミカンにイチゴ、ブドウにバナナ …確かに見かけない。それぞれに理由があるのであろうが、リンゴはそれが不可能に思えるほどとてつも なく難しいということらしい。

 木村さんのそのとてつもなく難しいことに挑戦したことを綴ったこの本からは農業の行き着くべき1つ の究極の姿とそこに行きつく過程で木村さんが得た、そして自分も共感する気づきを見ることができる。

 本来そこにあってはならない植物が自然の力により虫などの動物や菌類による病気に侵される。それを 防ぐために農園と呼ばれる造成し虫もいない、雑草も生えていない特別な区域を造成し農作物を育てるの である。無菌ルームで子供を育てるようなもの。だから得られる果物もデリケートで弱い。木村さんのリ ンゴは腐らないらしい。放置するとカビなどに侵されることなく乾燥だけが進んでいくそうである。

 そうした特別な区域では自然界のバランスが崩れているためにひとたび虫や菌類に侵されるとすぐに深 刻なほど進んでしまう。自然界ではそれぞれに天敵が存在するためにそうはならない。昨今話題になって いる生物界の多様性である。リンゴ農園に自然界のバランスを組み込む(というより取り戻す・溶け込む )ことにより完全無農薬を実現させたのである。木々本来の生命力によって自然界でうまく育つようにサ ポートだけを行うことが木村さんのやり方。

 「サポートする」仕事が多い私にとってこの取り組み姿勢が大きく刺激になった。木村さんは理論知識 武装した現場主義者である。多くの本を読み漁りながら理論・知識を取り入れ自分で仮説を立てて現場で 実証していく。結論は現場が教えてくれる。自分もそうありたいと思う。